来 歴


悪い夢


海面すれすれに羽をひろげて
暗い深夜の砂浜の方へ
風を切って飛ぶ夢をよく見る
快適な飛行というわけではない
重たい陸地をぬぎ捨ててしまって
はるかな沖へ出て行く海と
心ならずも逆行していることへの悔いだ
重たい海と等質のくらやみに
どっぷり魂を浸しに行く夢だ
青い色がさびしいのだろうか
それとも夢の中の海は
星ひとつ映さない空洞だったろうか
私の顔をした海鳥が
空を漕いで行く夢
一羽ではなく
あとからあとから
同じ顔をした海鳥が
くらやみの砂浜を目ざして飛ぶ夢

年若い友達は
まだ荒れた海など
夢に見たことがないという
にぎやかに渦まく
人間のドラマに抱かれて眠るという
それなら私の夢の中で
暗いしぶきをあげる
あの砂浜はいったい何なのだろう
年若い彼女とは共有しなかった
「悪い時代」のイメージなのかもしれない

私の顔をした海鳥が
一つのことばを追って
羽をぼろぼろにするまで
飛ぶ夢をまた見るに違いない
砂浜はまだ近づかない
ことばにはまだ届かない
魂は漂流を続けるだろう
悪い夢は終わらないだろ

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